
中央政府側との境界線に接する町から逃れ、養鶏場で避難生活を送る国内避難民の人たち


避難民の診察にあたる神谷保彦医師
避難先の養鶏場でピースウィンズ
・ジャパンの女性医師の診察を受ける
ショーシュから避難してきたキルクーク出身のミーナさん。食べ物はもうないという
ペシュメルガが使っていた施設での巡回診療を待つ避難民たち
ピースウィンズ
・ジャパンの水・衛生チームが設置した避難民用のトイレ
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2003.04.07
小麦粉も灯油もお金もない
長期化する避難生活を本格支援
イラクに対する戦争の開戦直前から、ある村の養鶏場だった建物で34家族156人が、避難生活を続けています。同じ村にあるペシュメルガ(クルド兵士:「死に向かう人」という意味)が使っていた施設には28家族137人が避難しています。いずれも中央政府側との境界付近から逃れてきた国内避難民です。「砲撃が怖くて町に戻れない」「タクシーに乗るお金がない」「小麦粉も底をついている」と訴えます。こうした声に応え、ピースウィンズ
・ジャパンは、モバイル医療サービスや水・衛生施設の設置を手始めに支援を本格化させています。
[辛い生活にさらに苦難]
この人たちが避難生活を送っている施設は、イラク北部・クルド人自治区のほぼ中央、スレイマニアから車で1時間ほど走った山間の村のはずれにあります。中央政府側との境界に接するチャムチャマルやショーシュなどの町から、開戦直前に避難してきた家族が大半です。
養鶏場で生活するミーナさん(22歳、女性)=仮名=は、イラク北部の大都市キルクーク(中央政府側)の出身。食料品店を営む父と、母、兄と一緒の生活で、「毎日、学校に通うのが、楽しかった」と子供の頃を振り返ります。しかし、1988年にフセイン政権が行ったクルド人掃討作戦「アンファル・キャンペーン」で兄は連れ去られ、家族は学校からもキルクークの街からも去るしかありませんでした。ミーナさん一家は、多くのアンファルの被害者たちとともに、ショーシュへの移住を余儀なくされました。
結婚後も父母に援助をしてもらう生活が続きましたが、父は99年に他界し、ショーシュでの生活もさらに苦しくなりました。「食糧配給だけが頼り」(ミーナさん)でした。
戦争はミーナさんたちに、さらに苦難を強いることになりました。
開戦前から、ペシュメルガの務めを果たす夫はイスラム勢力との戦闘のため家を離れていました。ミーナさんと母は、安全のため、ミーナさんの4歳と2歳の女の子を連れて避難することを決めました。戦場の夫は家族が避難したことすら知りません。
避難生活が長引き、母が家に残してきたわずかな食べ物を持ち出すため、ミーナさんと母は1度だけ、ショーシュに帰りました。「爆撃や戦闘機の音が響いて、恐くてたまりませんでした」。
「一番辛いのは、子どもたちにビスケットをせがまれても、何もあげられないとき」とミーナさん。「サダム(フセイン)がいなくなって自由が来ること、夫が無事に帰ること、アンファルの被害者たちの消息がわかることが願い」と暗い表情で、話します。
[食べる物と灯油がほしい]
ミーナさんは「食べる物は、もうほとんど何もない」といいます。残っているのは母が配給でもらった分だけです。
自治区を含むイラクでは、国連安保理決議986による「オイル・フォー・フード・プログラム」(食糧と石油の交換プログラム)により、すべての住民が基礎的な食糧などの配給を受けています。職につけず、収入を欠く自治区内の多くの人たちが配給に依存しています。
戦争前に一部の品目の前倒し配給を受けた人もいますが、主食の小麦粉の配給がストップしています。「最後の小麦粉の配給は2カ月以上前」とミーナさん。居住地などによって違いはありますが、ピースウィンズ
・ジャパンが調べたところ、2月以降、小麦粉の配給を受けたという人はいません。食用油の配給も滞っています。
さらに、避難するための費用を払うため、蓄えてあった食べ物の一部を売ってしまった人が多かったことも、聞き取り調査や巡回診療での医師と避難民との会話からわかってきました。
小麦粉とともに避難民たちからの要望が多いのが灯油です。自治区では朝晩はまだ冷え込む日が多く、とくに避難民の多い山間の地域では気温が下がります。養鶏場の避難民の多くは、毛布だけで寒さをしのいでいます。また、調理に使うプロパンガスは唯一の供給源だった中央政府側からの搬入が止まり、価格も高騰しています。「調理のためにも灯油が必要」との声は、ほとんどすべての避難民が口にします。
ピースウィンズ・ジャパンでは避難民の生活を支援するため、とくに状況の深刻な養鶏場の避難民に備蓄していた灯油を提供することを決めました。配布は近日中に行います。
[健康悪化を食い止めたい]
健康状態への懸念から、ピースウィンズ
・ジャパンは養鶏場とペシュメルガ施設の避難民を対象に、モバイル医療チームの派遣を始めました。医師3人を含むチーム5人が訪れた3月30日には、順番待ちの避難民が列をつくり、合わせて91人の受診者がありました。
この日の診察では、風邪などの呼吸器系疾患が46人、消化器系疾患が14人と多く、とくに呼吸器系疾患では5歳未満の子どもが21人にも上っていました。
診察にあたった神谷保彦医師らは「今後、栄養状態が悪くなっていくと、健康面にも影響が出るおそれがある。混雑した場所で生活しているため、風邪などが流行する可能性もある」と話しています。野菜が買えないため、ビタミン不足になりがちな妊婦らに対しては、ビタミン剤の配布も始めました。
ピースウィンズ・ジャパンの医師たちはまた、ペシュメルガ施設に避難した人たちの間で、下痢の発症が多いことを心配しています。原因として、
@飲料水のタンクにトイレの排水が流れ込んでいる
A手洗いや水の煮沸が行われていない
の2つが考えられることから、飲料水の分析を行うとともに、衛生教育のためのスタッフを、この施設と養鶏場に派遣することに決定しました。
また養鶏場の避難民たちの要望を受け、水・衛生チーム(water/sanitary、通称WAT/SAN=ワトサン=チーム)はトイレを新設したほか、水タンクの改修とシャワーの新設も近日中に実施し、避難民の健康面への配慮も重ねていきます。


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